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びわのはな
枇杷の花
永井 荷風
線上閱讀永井 荷風《枇杷の花(びわのはな)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 2,769 字 · 6 頁
山形ホテルの門内に軍服らしいものを着た外国人が大勢立話をしているのを見て、何事かと立止って様子をきくと、このホテルはチェコ、スロバキア国義勇軍の士官に貸切りになっているとの事であった。崖の上から見下す箪笥町の窪地には樹木の間にところどころ茅葺家根が見えた。市兵衛町の表通には黄昏近い頃なのに車も通らなければ人影も見えず、夕月が路端に聳えた老樹の梢にかかっているばかりであった。わたくしはこの夕月を仰ぎ見て道の赴く方角を推知し、再び飯倉八幡宮を目標にしながら電車通へ出たのであった。
そのころ愛宕山の麓には仏蘭西航空団とかいた立札が出してあったが、飛行機はまだ今日の如く頻繁に空を走ってはいなかった。霊南坂を登る時、米国大使館の塀外を過ぎても、その頃には深夜立番している巡査の姿を見るようなことはなかった。震災後銀座通に再び柳が植えられた頃から、時勢は急変して、妓家酒亭の主人までが代議士の候補に立つような滑稽な話は聞きたくも聞かれなくなったが、その代りカフェーの店先にも折々鎧をきた武者人形が飾られ、骨董屋の売立広告にも「珍品の砲列を布き廉売の商策を回す」などいう文字を見るようになった。