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いなかがえり
林芙美子随筆集
林 芙美子
線上閱讀林 芙美子《林芙美子随筆集(いなかがえり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 58,157 字 · 118 頁
おいはぎの出た暗がりの横町に家が建ちその一軒に自分の親たちが住もうなどとは思いもよらなかった。それに二階の御夫婦は世にも善良な人たちで、奥さんはすらりとした、スペイン型の美人であった。御亭主は活動の方へ出ている人なのだが、時々母の持って来る話では、「トオキイちゅうは何かの? 楽隊がいらんごとになってしもうて、お前二階で遊んでおんなさるが」と云うことであったが、市内になってしまったとは云っても、郊外らしい活動館まで、トオキイになってしまっては、楽士さんもなかなか骨なことであろう。
いまは、秋らしくなった。だが、日中はなかなか暑い。私は二階の板の間に寝台を持ち出して寝ている。寝ていると月が体に降りそそぐように明るんで、灯を消していると虫になったような気がして来る。――高台なので、川の向うの昔住んでいたうちや、尾崎さんのいた家、昔は広い草の原であった住宅地などが一眸のうちに見える。前居た家には、うちに働いていてくれた花子と云う女が世帯を持って住むようになった。小さい屋根に、私たちがしていたように、時々蒲団が干してある。私が所在なくしたように、小窓から呆んやりした花子の顔が、川一ツへだてた向うに見える。