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ますおとし

枡落し

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《枡落し(ますおとし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 33,765 字 · 67 頁

青空文庫

芳造はいい男らしい、女房に泣きをみせるようなことはないと思うが、自分の亭主の千太郎も初めはそうだった、それがぐれだしたのは、自分が稼ぎだしたからではないかと思うが、家主の喜六に云わせれば、やはりその人間によるのだという、だとすれば、娘になにを助言することがあるだろうか。

「たいていの夫婦はうまくいっている」とおみきは呟いた、「あたしたちの場合は珍らしいのだろう、本当にひどいとしつきだった」

――そのほうは婦道ということを知っているか、と町奉行のなんとか壱岐守という人が云った。夫婦は一心同躰、良人がぐれだしたとみたら、命を賭けてもそれを止め、戒め励まして、常道に返らせるのが妻のつとめではないか、そのほうは千太郎の悪事を知っていた筈だ、それと気づいたとき、蹴殺されてもいいという覚悟でいさめたら、こんなことにはならなかったとは思わないか。

ほかにも云われたことはあるが、要点は女の道に外れていた、ということであった。そうかもしれない、そういう点では自分はいい妻ではなかったかもしれない。けれども、あの人は諫めたくらいで納得するような性分ではなかったし、こちらも二十三になるやならず、父に溺愛されて育ったから、ぐれたあの人をどうやって引戻せるか、なんの知恵も思いうかばず、まったく途方にくれるばかりであった。