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ますおとし

枡落し

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《枡落し(ますおとし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 33,765 字 · 67 頁

青空文庫

――けれども、こっちは亭主の千太郎が悪くぐれていて、自分や娘の内職稼ぎはみんな掠っていってしまうし、しばしば夜具や着ている物まで剥いでゆくという、はなしにもならない状態の中でしたことであった。云うまでもないことだが、それを恩にきせたり、有難がってもらおうなどという気持は爪の先ほどもなかった。ただ、しなければならないからそうしたまでのことであるが、亭主の千太郎が人殺し兇状でお繩になったとたん、まるで風見車が北から南へ変ったように、一人残らずそっぽを向いてしまった。――引越しによけいな手はいらなかった。古い茶箪笥と、僅かな勝手道具と、柳行李が二つと、古夜具が二た組しかない。あとは亭主の千太郎がいつも持ち出してしまうので、差配の藤吉と「伊予巴」の芳造だけでも、充分に手がたりた。実際には少しも手伝ってもらう必要はないのだが、それまでのことを考えると、ひと言の慰めも劬りの言葉もなく、そっぽを向いたままで、さも「これで厄払い」をしたとでも云いたげな人たちに、おみきは肝の煮えるようなおもいをしたものであった。

――そんなふうに思ってはいけない、とおみきは心の中で自分をなだめた。