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ますおとし

枡落し

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《枡落し(ますおとし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 33,765 字 · 67 頁

青空文庫

「つまるところ、その人に会わせたくないんですね」

「なんだって」

「大蛇の辰なんていう人間はいねえんじゃねえのか」芳造はそう思って云ったのではなく、直感的に口から出たのだが、云ってみてから、それが本当ではないかという気がした、「――ええ、そうじゃあねえのかい」

「へん」幸助は咳をし、横眼であたりを見まわした、「おめえ、おれにいんねんをつける気か」

「いんねんをつけられる弱味があるのかい」

幸助はあいそ笑いをした、「おどろいたよ、おめえは度胸がいいんだな」

「辰とかいう人に会えばいいんだ」

「三両の金は、そこに持ってるんだな」

「ここにあるよ」

幸助はまた横眼で、すばやくあたりを見まわし、唇を舐めた。参詣人もなく、境内はしんと静まり、春の陽がいっぱいに照りつけていた。

「その、――」と幸助はうしろ首を掻きながら、上眼づかいに芳造を見た、「辰あにいに会わせるのはいい、しろうと衆のゆくところじゃあねえが、おめえがそう云うんならいっしょにゆこう、だが、――金は先にみせなくちゃあいけねえ、その金をおいらに預からしてくれねえか」

「そうくるだろうと思った」

「なんだって」

「大蛇の辰なんて人間はいねえんだろう」