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かきのたね

柿の種

寺田 寅彦

線上閱讀寺田 寅彦《柿の種(かきのたね)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 70,202 字 · 139 頁

青空文庫

帰って来るのである。

しかし、これはなんという偶然なことであろう。

この家、この家族が、はたしていつまでここに在るのだろう。

ある日、一日留守にして、夜おそく帰って見ると、もうそこには自分の家と家族はなくなっていて、全く見知らぬ家に、見知らぬ人が、何十年も前からいるような様子で住んでいる、というような現象は起こり得ないものだろうか、起こってもちっとも不思議はないような気がする。

そんな事を考えながら、門をくぐって内へはいると、もうわが家の存在の必然性に関する疑いは消滅するのである。(昭和四年七月、渋柿)

*

あたりが静かになると妙な音が聞こえる。

非常に調子の高い、ニイニイ蝉の声のような連続的な音が一つ、それから、油蝉の声のような断続する音と、もう一つ、チッチッと一秒に二回ぐらいずつ繰り返される鋭い音と、この三つの音が重なり合って絶え間なく聞こえる。

頸を左右にねじ向けても同じように聞こえ、耳をふさいでも同じように聞こえる。

これは「耳の中の声」である。

平生は、この声に対して無感覚になっているが、どうかして、これが聞こえだすと、聞くまいと思うほど、かえって高く聞こえて来る。