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えいぞうのし
栄蔵の死
宮本 百合子
線上閱讀宮本 百合子《栄蔵の死(えいぞうのし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 38,295 字 · 77 頁
になった眼窩の様に、歯を損じた口のあたりは、ゲッソリ、すぼけて見える。
お節は、つぎものの手を止めて、影の薄い夫の姿を見入った。
地の見える様な頭にも、昔は、左から分けた厚い黒々とした髪があったし、顔も油が多く、柔い白さを持って居た。栄蔵の昔の姿を思い浮べると一緒に、小ざっぱりとした着物に、元結の弾け弾けした、銀杏返しにして朝化粧を欠かさなかった、若い、望のある自分も見えて来た。
無意識に手をのばして、自分の小さい櫛巻にさわった時、とり返しのつかぬ、昔の若さをしたう涙が、とめ途もなくこぼれた。
涙に思い出は流れて、目の前には、不具な夫の小寂しい姿ばかりが残るのである。
ややしばらく身動きもしないで居た栄蔵は、片手をのばして、お節の針箱のわきから、さっき来た手紙を取った。
娘の手蹟を、なつかしげに封を切って、クルクルクルクルと読んで仕舞うと、ポンと放り出して、
「あかん。
とうめく様に云った。
「何んや、
どこからよこいたんどすえ。
「東京――お君からよ。
病気になって、偉う困っとる云うてよこいたんや。
腰の骨が膿んだ云うてやが、そんな事あるもんやろか、
とんときいた事はあらへんがなあ。