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つちのなかからのはなし

桜の森の満開の下

坂口 安吾

線上閱讀坂口 安吾《桜の森の満開の下(つちのなかからのはなし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 76,558 字 · 153 頁

青空文庫

合図がないものかと首を長くして待つうちに、下から声がとどいて引上げろ、という。それこの引上げが大事なところ、あせらぬように用心しろと戒め合ってそろりそろりと引上げるが、人間が乗ったにしてはどうも手応えが軽すぎる。どうも、おかしい。なにか間違いがあるんじゃないか。いや、殿も用心して木の枝から枝をつかまりたぐっていられるので重さがないのだろう、などと上まで引上げてみると、まさに旅籠の中には人の姿がない。人の代りに平茸がいっぱいつめこんである。顔を見合せていると、谷底から声がきこえて、その平茸をあけたら早く空籠を下してよこせ、まだか、おそいぞ、と言っている。そこで再び旅籠を下してやると、今度は重く、ようやく引上げてみると、殿様は片手に縄をしっかとおさえてドッコイショと上ってきて、片手には平茸を三総ほどぶらさげている。いや驚いた、慌て馬のおかげでとんだ目にあうところだった、落ちるうちに木の枝と葉の繁みの中へはまりこんで手をだしたら初めの枝は折れてつかみ損ねたが、二本目、三本目にうまくひっかかって木の胯の上へうまいぐあいに乗っかることができたのさ。それにしても平茸はいったい何事ですか。