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つちのなかからのはなし
桜の森の満開の下
線上閱讀坂口 安吾《桜の森の満開の下(つちのなかからのはなし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 76,558 字 · 153 頁
虚脱もあった。怒りもし、すねもし、そして、愛し、愛された。
道鏡の堕落の思いは日毎にかすみ、失われた。そして彼はもはや一人の物思いに、夜の遊びを思いだすことがあっても、大空の下、あの葛木の山野の光のかがやきの下の、川のせせらぎと同じような、最も自然な、最も無邪気な豊かな景観を思うのだった。
彼は女帝を愛していた。尊く、高く、感じていた。
彼は内道場の持仏堂の仏前に端坐し、もはや仏罰を怖れなかった。否、仏罰を思わなかった。女帝と共に並んで坐り、敬々しく礼拝し、仏典を誦し、彼の心は卑下するところなく高められ、遍在し、その心は香気の如く無にも帰し、岩の如くにそびえもし、滝の如くに一途に祈りもするのであった。女帝の貴き冥福のために。
彼は自分を思わなかった。ただ、女帝のみ考えた。彼は女帝を愛していた。彼の心も、彼のからだも、女帝のすべてに没入していた。女帝は彼のすべてであった。彼の魂は幼児の如く、素直で、そして、純一だった。
*
藤原一門の陰謀児達は冷やかな目で全ての成行を見つめていた。
道鏡という思いもうけぬ登場によって、彼等自身細工を施すこともなく、恵美押勝は自滅した。