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つちのなかからのはなし
桜の森の満開の下
線上閱讀坂口 安吾《桜の森の満開の下(つちのなかからのはなし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 76,558 字 · 153 頁
然し、百川は動かなかった。彼は自ら筋書を書くのでなければ承服し得ない人間だった。彼は白壁王を立て、左大臣永手、兄の参議良継と謀議して、宣命使をかたらい、大市を立てる宣命に代えて、白壁王を立てる旨を宣らせ、先帝の御遺詔であると勝手な文句をつけたさせた。
そして白壁王が即位した。時に新帝の宝算六十二。百川は、時にようやく、三十九。
浮世の風、すべてこれらのイキサツを、道鏡はわれ関せず、庵の中で日ねもす夜もすがら、彼はまったく知らなかった。
そして彼の耳もとに吹きつけてきた浮世の風の一の知らせは、彼が天皇に即くことではなく、死一等を減じ、造下野薬師寺別当に貶せられ、即日発遣せしめる、という通告だった。
下野薬師寺は奈良の東大寺、筑紫の観音寺と共に天下の三戒壇、鑑真の開基で、日本有数の名刹だった。この名刹の別当は、流刑というには当らない。彼は多分、煙たがられていたにしても、さして憎まれてはいなかったのだ。ただ枢機から遠ざけたいということだけが、人々の同じ思いであったのだろう。
陵下を離れる思いのほかに、彼を苦しめる思いはなかった。すべては、すでに、終っていた。