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つちのなかからのはなし

桜の森の満開の下

坂口 安吾

線上閱讀坂口 安吾《桜の森の満開の下(つちのなかからのはなし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 76,558 字 · 153 頁

青空文庫

時世時節なら何事も仕方がないという考えで、秀吉の幕下に参じて関白太閤などと拝賀することぐらい蠅が頭にとまったほどにしか考えていない。

このままいつ死んでもそれでよし、そういう肚の非常にハッキリした家康で、そういう太々しい処世の骨があったから、野心家のようにあくせくしないが、底の知れないようなところがある。それで古狸などと思われるが、根は律儀で、ただいつ死んでもいいという度胸の生みだした怪物的な影がにじんでいるだけである。

いつ死んでもいいという最後の度胸はすわっていたが、平常の家康はお人好しで、小心な男であった。彼は五十ぐらいの年配になっても、まだ、たとえば近臣が何かの変事を告げ知らせると、忽ち顔色青ざめて暫く物が言えなくなるたちであったという。秀吉の死後、三成一派が家康を夜襲するという噂の時にも彼は顔色を変えてしまったということで、いい年配になってもそういう素直な人だ。素直という意味は、たとえば我々のような凡人でも、四十五十になれば事に処して顔色を変えないぐらいの稽古はできる。我々は内心ビクついておりながら顔色だけはゴマかすぐらいの習練はできるのである。