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つちのなかからのはなし
桜の森の満開の下
線上閱讀坂口 安吾《桜の森の満開の下(つちのなかからのはなし)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 76,558 字 · 153 頁
彼は齢をとってきた。クーデタがきらいだなどといううちにいつ死ぬかも知れない怖れもまじってきて、恥も外聞もなく狸婆アの嫁いじめのような泥くさいことを平然とやってのけたが、古今東西、天下をとった男の中でこれぐらい不手際のとり方はめったにない。こんな下手クソな見えすいた口実をつけるぐらいなら始めからアッサリ武力に訴えて然るべきであろうに、それが出来ずにこういう泥くさい不手際でかすめとったというのは、彼はつまり凡そ人の天下をとるにふさわしくない場違い者であった証拠である。
時代というものは奇妙なもので、決してその時代の最大最高とは限らない人物が、時の流行の思潮によって最大最高の位置につく。その下役の参謀などに却って人物がいても、時代は識見と相応せずに人柄と取引するような場合が多いので、柄が時代に合わないと、どうにもならないものである。
芸術などは思潮自体流行的なものだから別してそうで、流行作家というものは時代思潮を血肉化して永遠の足跡を残す人は案外少くむしろ歴史的には埋没する性質の多いものなのである。
家康という人は力ずくで人の天下をとるべき性質の人ではないので、よい番頭、よい公僕、そういう人で、議会政治の政治家としては保守党の領袖などにまア似合う人だ。