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もみノきはのこった

樅ノ木は残った

山本 周五郎

線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 148,519 字 · 296 頁

青空文庫

またそのことが、おれをこの哀れな境遇に追いやったのだ、わかるか、甲斐」

「おそれながら、感仙殿(忠宗の廟号)さまについて、これ以上うかがうことはできません」と甲斐が云った、「これ以上なお仰せられるなら、私はおいとまを頂戴いたします」

「いや帰さぬ、帰れもしない筈だ」と綱宗は云った、「おれが心をうちあけて話せるのは、周防と甲斐の二人だけだぞ、逼塞になって以来、周防にもそのほうにも会えない、呼ぶこともできず、手紙をやるたよりもない、いま久方ぶりに会って、この胸に溜っているおもいを聞いてもらおうとするのに、耳をふさいで帰ることはできない筈だ、甲斐にはそうはできない筈だぞ」

綱宗の声がふるえ、甲斐をみつめる眼は、うるみを帯びてきらきらと光った。甲斐は眼をそむけた。

「それでも帰るというか」と綱宗が云った、「そのほうまでがおれからそむくなら、もうなにも云うことはない、帰るなら帰れ」

「原田さま」とはつ女が云った。

甲斐は頷いた。

「御機嫌を損じて申し訳ございません」と甲斐は云った。

「感仙殿さまのことさえ仰せられなければ、よろこんでお話しをうけたまわります」

「事実であってもか」