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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 148,519 字 · 296 頁
刀を袖で抱えて、うしろからついて出たおくみは、玄関で刀を甲斐に渡すと、ふいに、両手で顔を掩って泣きだした。
玄関には支度をした舎人が控えていた。
「矢崎さま」とおくみは泣きながら云った、「どうぞ御前をおたのみ申します」
舎人は黙って低頭した。
甲斐は右手に刀を持ったまま、玄関を出て駕籠に乗った。おくみはおろおろと涙を拭き、その眼でひき止めようとでもするように、甲斐のうしろ姿をじっと見まもっていた。
丹三郎が脇について、駕籠があがった。
「良源院へ寄ろう」と甲斐が云った。
乗ってゆくあいだずっと、甲斐は腕組みをし、眼をつむっていた。ときどき眉をしかめたり、額に皺をよせながら唇を噛んだりした。雅楽頭との対面が、彼の気分を重くるしくしていた。
――理由はなんだ。
なんの必要があって、二度も自分を訪ねて来たのか。対談ちゅうにさぐり当てようとしたが、終りまで、いとぐちもつかめなかった。一ノ関と相談のうえか。わからない。兵部にそんな必要があろうと思えないし、そのために湯島などを訪ねるような、雅楽頭とも思えなかった。
盃のことは笑止であった、あの盃をじかに受けたら、「主従のかためだぞ」