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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 148,519 字 · 296 頁
「飯にしよう、丹三郎」と甲斐が云った。
「それがようございましょう」とおくみが云った、「ですけれど、曲輪へいらっしった話しは、これで済んだのでございませんからね」
「今朝の会は、充実した話しが多かったようですな」と甲斐が云った。
みんなが笑った。七十郎は笑いながら、しかし原田さんはみんなうまく躱しましたよ、と云った。里見十左衛門は黙っていた。
蜂谷やおくみや、給仕の少年たちは、ぎらぎらするような話題から解放されて、みんなほっとしたような顔になった。だが十左だけは、暗く重苦しげな表情で、ひとりだけなにか思いつめていた。単直でいちずな彼の性分には、七十郎の言葉はあまりに重大すぎたし、その内容と、暗示するものとに圧倒された。
ことに、――貴方は奥山大学を憎んでいる、と云われたことが、十左の肝にこたえた。十左は奥山大学を憎んでいた、大学が兵部宗勝をうしろ盾にして、勝手な横車を押しとおすありさまは眼に余った。
――御家を毒するやつだ。
十左はそう思っていたが、それは心の中のことで、誰に話したこともなく、また人に話すようなことでもない。それを七十郎はむぞうさに云い当てた。