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もみノきはのこった
樅ノ木は残った
山本 周五郎
線上閱讀山本 周五郎《樅ノ木は残った(もみノきはのこった)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 148,519 字 · 296 頁
いま唐船あきないが停ったかたちになっていますが、そこをつけこんで、媽港あたりの英国商人がわれわれの荷を買占めにかかろうとしています。これにひっかかると交易の市場をかれらに独占されかねません、それで英人商社には荷を捌かないという協約をまとめにかかっているのですが、なにしろ金繰りに詰まってくると、そんなわけにもゆかぬ者が出て来ますから、と信助が云った。
おくみが戻って来たので、信助は話しをやめた。おくみは硬い表情をしていた。
「お支度ができました」
「では雁屋」と甲斐は信助を見た。
信助はにこりともしないで云った、「お待ち申しております」
「おくみ、松原たち三人を呼んで、雁屋の相手をさせてくれ、それから駕籠だ」と甲斐が云った。
おくみはまた訝しそうな眼をした。甲斐は妻を見て立ちあがった。
「律、ゆこう」
律はしんなりと立った。
おくみはもの問いたげに、なお甲斐の眼を見まもった。「駕籠だ」という言葉が、聞きちがいではないかと思ったらしい。甲斐はその言葉をもういちど繰り返すかのように、おくみの眼を見返してから、座敷を出た。
母屋の奥の、寝所とみえる八帖の間に、屏風をまわして、寝る支度ができていた。