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いきふどう

橘外男ワンダーランド 怪談・怪奇篇

橘 外男

線上閱讀橘 外男《橘外男ワンダーランド 怪談・怪奇篇(いきふどう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 198,400 字 · 387 頁

青空文庫

「な……何? お母さん?」

「口癖にいうていなされた新次郎が、仏蘭西から帰って参りましたぞい。逢うてやって、つかあされ! 阿母さまはもう頭に来てなさるで、お前がおわかりにならぬだろ!」

「こ……こ……これが、お母さんか! お……お……お母さん……だったのか?」

と私はそこに崩おれました。

「し……し……し、知らなかった……こ、これが、お母さんとは……し、らなかった。兄さん! か、勘弁してくれ!」

涙が後から後からと湧いて来て、もう私には、母の姿が見えなくなりました。母にも、私の姿がわからないのです。兄のいってることも、私が帰って来たことも! ただ白眼勝ちな片一方の眼が、キョトンとしてうつろにあらぬ方を眺めているばかり。兄のいうことも、聞えるのやら聞えぬのやら!

「今日は、友治の、誕生日でござりますでな……ほら、阿母さまのお好きな、小豆飯をどっさり持って参りましたぞい。お膾も持って参りましたぞい。ほれ、これが金平……煮染めもありますで……ひらべの煮付け……」

リュックを開いて、兄の取り出しているものは、掛軸でもなければ什器、茶道具の類でもありません。五里の山道を背負って来るために、嫂が詰めたのでしょう。