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はるはばしゃにのって
機械・春は馬車に乗って
横光 利一
線上閱讀横光 利一《機械・春は馬車に乗って(はるはばしゃにのって)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 77,492 字 · 156 頁
「歩きましょうよ。こんなときでも歩かなければ、何しに来たのか分らないわ」と千枝子は云った。
定雄には、道はどこまでも平坦なことは分っていたが、清も弱るし、濡れた草履の冷たさは後で困ると思ったので、
「乗ろうじゃないか。気持ちが悪いよ」とまたすすめた。
「あたしは乗らないわ、だって登りがもうないんでしょう」と千枝子はまだ頑強に一人先に立って雪の中を歩いていった。
「それじゃ、困ったって知らないぞ」と定雄は云うと尻を端折った。
道は暗い杉の密林の中をどこまでもつづいた。千枝子と定雄は中に清を挟んで、固そうな雪の上を選びながら渡っていった。ひやりと肌寒い空気の頬にあたって来る中で、鶯がしきりに羽音を立てて鳴いていた。定雄は歩きながらも、伝教大師が都に近いこの地に本拠を定めて高野山の弘法と対立したのは、伝教の負けだとふと思った。これでは京にあまり近すぎるので、善かれ悪しかれ、京都の影響が響きすぎて困るにちがいないのである。そこへいくと弘法の方が一段上の戦略家だと思った。定雄は高野山も知っていたが、あの地を選んだ弘法の眼力は千年の末を見つめていたように思われた。