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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

線上閱讀下村 湖人《次郎物語(じろうものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 200,443 字 · 398 頁

青空文庫

かれは、その時、事務室で、郵便物当番を手伝って、配達された郵便物を各室ごとによりわけていたのだったが、その当番に顔を見られるのが苦しくなり、いきなり自分の室にかけこんだために、かえって当番に目を見張らしたほどであった。

かれが、このごろ、だれの眼よりもおそれたのは、大河無門の眼だった。かれは、むろん、大河が自分の心の中を見とおしているなどとは考えていなかった。どんなに洞察力のある大河でも、こないだの日曜に恭一と道江とがたずねて来たおり、いっしょに飯を食ったり、わずかの時間話したりしただけで、それができるとは思えなかったのである。しかし、かれが恭一に返事を出したその日に、大河がたまたま浴室で持ち出した恋愛論は、期せずしてかれに対する大きな人間的抗議となっていた。そして道江に対するかれの恋情が深ければ深いほど、また自分という人間がなさけなく思えて来れば来るほど、この抗議がきびしく胸にこたえ、大河と顔をあわせるのが息ぐるしくなり、その眼がこわくなって来るのだった。こんな時こそ、自分から進んで大河にぶっつかり、その助言を求むべきではないか、という気もして、何度か、かれを自分の室に招き、二人きりで、話してみたいと思ったこともあったが、いざとなると、どうしてもその勇気が出なかったのである。