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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

線上閱讀下村 湖人《次郎物語(じろうものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 200,443 字 · 398 頁

青空文庫

(これほど塾生たちが期待してくれているこの塾の運命も、遠からず決定するのだ。何という矛盾だろう。何という大きな損失だろう。)

かれは、そう考えて、地だんだをふみたい気持ちだったのである。

まもなく、また講義がはじまり、事務室も廊下も、ひっそりとなった。次郎は、休みの時間に塾長室で、今日の事変のことを朝倉先生から聞かされたにちがいない小川先生が、どんな講義をされるか、きいてみたい気持ちで一ぱいだったが、電話のことが気がかりで、やはり自室に残っていた。

かれの眼は、べつに見る気もなく、机の上にひらいたままの「歎異抄」にそそがれた。そして、最初に眼にとまったのは、つぎの一節だった。

「念仏は、行者のために、非行非善なり。わがはからひにて行ずるにあらざれば、非行といふ。わがはからひにてつくる善にあらざれば、非善といふ。ひとへに他力にして、自力をはなれたるゆゑに、行者のためには、非行非善なり。」

かれは、これまで、こうした絶対自力否定の言葉に強く心をひかれていた。それは、しかし、その言葉を素直に受けいれてのことではなく、むしろその反対に、素直に受けいれることのできない自分の心のいたらなさをもどかしく思うからのことであった。