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じろうものがたり
次郎物語
下村 湖人
線上閱讀下村 湖人《次郎物語(じろうものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 200,443 字 · 398 頁
玄関では、田沼先生が小川先生と朝倉夫人とを相手に、まだ立ち話をつづけていたのである。
朝倉先生は、しかし、みんなのそんな様子を見ても、べつに注意をうながすのでもなく、その澄んだ眼に微笑をうかべて、しずかに待っていた。
すると、大河無門がだしぬけに言った。
「巻の一の第二十八節をぼくに読ませてもらいます。」
その声は、例の落ち葉をふむような低い声だったが、みんなの私語をぴたりととめた。だれよりもぎくりとしたのは次郎だった。次郎にとっては、それが大河の声であるということだけで、もう十分な刺激だった。しかも、その大河は、これまで読書会ではほとんど沈黙を守りつづけて来ており、真っ先に口をきったことなど、全くなかった人なのである。
みんなが、あわててページをひらくと、大河は、ぼそぼそと読み出した。
「翁曰く、何事にも変通といふ事あり。知らずんばあるべからず。即ち権道なり。夫れ難きを先にするは聖人の教へなれども、これは先づ仕事を先にして而して後に賃金を取れと云ふが如き教へなり。ここに農家病人等ありて、耕し耘り手おくれなどの時、草多きところを先にするは世上の常なれど、右様の時に限りて、草少なく至って手易き畑より手入れして、至って草多きところは最後にすべし。