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じろうものがたり

次郎物語

下村 湖人

線上閱讀下村 湖人《次郎物語(じろうものがたり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 200,443 字 · 398 頁

青空文庫

次郎の視線は、大河無門の顔にひきつけられたきり、しばらくは動かなかった。かれは何か一つの不思議を見るような気持ちだった。

(大河無門は、ぼくなんかにはまだとてもうかがえない、ある心の世界をもっているのだ。)

かれにはそんな気がした。その気持ちが、しだいにかれをおちつかせた。そして大河無門と荒田老とを見くらべてみる心のゆとりを、いつのまにか、かれにあたえていた。

かれの眼に映じた大河無門と荒田老とは、まさに場内の好一対であった。荒田老は、平木中佐の所論の絶対の肯定者として、怪奇な魔像のように動かなかったし、大河無門は、その絶対の否定者として、清澄な菩薩像のように動かなかったのである。

次郎は、これまでの不快な興奮からさめて、ある希望と喜びとに裏付けられた新しい興奮を感じはじめていた。そのせいか、中佐の狂気じみた言葉も、もう前ほどにはかれの耳を刺激しなくなっていたのである。

中佐は、最後に、いっそう声をはげまして言った。

「諸君にとってたいせつなことは、いかに生くべきかでなくて、いかに死ぬべきかだ。大命のまにまにいかに死ぬべきかを考え、その心の用意ができさえすれば、おのずからいかに生くべきかが決定されるであろう。