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ぶしゅうこうひわ
武州公秘話
谷崎 潤一郎
線上閱讀谷崎 潤一郎《武州公秘話(ぶしゅうこうひわ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 107,572 字 · 209 頁
それに、御殿の奥と云うものは日の目の届かない薄暗い部屋が多く、此の厠の室内もたった一つしかない窓の障子に、秋の午後の日ざしが弱い反射を投げているだけなので、その夕闇色の鈍い明りの中で探り見る夫人の容貌は、恐らく彼が脳裡に描いていた幻影と大差のない程にぼんやりしたもので、たゞその人のほのじろい顔のけはいに依って、いかに蘭たけた上※(「藹」の「言」に代えて「月」、第3水準1-91-26)であるかを想像で補うより外はなかったであろう。彼がはっきりと見たものは、暗い所ほど尚よく光る裲襠の金絲の縫い模様と小袖の箔の色とであった。そして夫人が用心深く懐剣の柄に手をかけながら立っているのを知ると、再び慇懃に両手の上へ面を伏せた。
「いかさま、其方は河内介、―――」
と、夫人は半分独りごとのように云った。蓋し河内介の方では此の時まで夫人を見たことはなかったけれども、夫人の方では彼をたび/\見ていたのである。当時の上流の婦人たちは、外出する時は輿に乗るか又は被衣や蟲の垂れ衣を頭から被り、館に居ては常に几帳や簾の蔭にかくれていたから、自分の顔を家中の男たちに見られる心配はなかったが、自分の方から彼等の顔を見ることは自由であった。