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ぶしゅうこうひわ
武州公秘話
谷崎 潤一郎
線上閱讀谷崎 潤一郎《武州公秘話(ぶしゅうこうひわ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 107,572 字 · 209 頁
主のため、親のため、兄弟のために一身を犠牲にした男の例は古来少くないけれども、それにしても四箇月の間も厠の地下に籠っていたと云う大助ほど、よく忍び難い役割を堪え忍んだ者は稀であろう。読者は大助の此の行動を、耻ずべき変態性慾者や色情狂者の為すところと混同してはいけない。彼のは飽く迄も生一本な忠義と孝行の念から発しているのである。されば此の驚くべき誠実と勇気とを持っていた青年は、恐らく自分の使命が或る程度まで遂行され、而もそれ以上は最早や実現不可能であると看て取った或る時期に、自ら刃に伏してその屍を金掘りのそれと同じ暗黒裡に埋め、真に文字通り芳ばしい最期を遂げたのであろう。そして河内介が坑道を潜行した際に彼に遇わなかったところを見ると、彼が自刃したのは必ずやその以前であったに違いない。
しかし、此の大助の代りの役目を自ら買って出た河内介と云うものを、―――此の物好きな若武者の心の中を、―――桔梗の方は如何に解釈したのであろうか? 日本の武士の間には、高貴の夫人を崇拝したり、又そのために命を捨てるのを名誉とするような西洋流の騎士道はない。されば桔梗の方が舅や夫に復讐しようと企てたのは当然であるとしても、河内介までがその味方をする謂われはない。