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ぶしゅうこうひわ

武州公秘話

谷崎 潤一郎

線上閱讀谷崎 潤一郎《武州公秘話(ぶしゅうこうひわ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 107,572 字 · 209 頁

青空文庫

と、箸の転んだようなことにも云い出すのである。

図

夫人は夫の言葉を聞くと、それを豫期していたものゝ如くお春に云いつけて料紙や硯箱を取り寄せた。そして、腰元の磨る墨の匂がほんのりとたゞよう中に、短冊を片手に、燈火のもとに近寄りながら、じきにすら/\と見事な筆のあとを走らせて行った。

織部正は、正直のところ歌のよしあしはどうでもよいのだが、夫人が短檠の灯影のもとにうつむいて、心に浮かび出る文句を口のうちであれかこれかと選り分けているときの、深く考え込んだ表情を見るのが楽しみなのであった。なぜなら、夫人の品のよい端麗な顔は、そう云う風に真面目に打ち沈んでいる時が、最も美しく、気高く感ぜられるからである。織部正はいつもその夫人の姿を、燈火にくっきりと照らし出される彫刻的な鼻や唇の線を、惚れ/″\とした眼つきで横の方から眺めながら、「己も随分いろ/\な女を知っているけれど、やっぱり育ちのよい上は格別だなあ」と、そう思っては、さも感心したような溜め息を洩らしたり、又たまらない嬉しさが込み上げて来たように、急ににや/\笑い出したりした。取り分け今宵の桔梗の方は、その奉書紙のような白い頬に三分の酔いを発しているのが、典型的な、やゝ固過ぎる面立ちに、云うに云われない婀娜っぽさを添えているのであるが、それにしても、若し河内介が