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ぶしゅうこうひわ
武州公秘話
谷崎 潤一郎
線上閱讀谷崎 潤一郎《武州公秘話(ぶしゅうこうひわ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 107,572 字 · 209 頁
図
頃しも五月五日、菖蒲の節句の日を選び織部正桔梗の方と同列にて諸士を集め和歌の催し事有之、かね/″\申触れ候ことなれば敷島の道を嗜む者共いでや秀歌をうたひ出して褒美に預からんものと存候事に候、されど牡鹿山の城中弓矢取りては耻かしからぬ武士共罷在候へ共、かゝる風流の会は何とやらん不案内にて物怯ぢやしたりけん、戦場の儀ならば功名をも争ふべけれ、和歌を以て面目を施すこと我等が本意にあらずとて、集まる者も多からず、皆々案に相違の態にて白け渡りて見え候
と「道阿弥話」は記している。当時、乱世の武将でも歌道の心得のある者が少くなかったとは云え、それは育ちのよい大名の子弟たちのことで、一般の武士は文字に暗かったから、まして風流韻事を楽しむ者などは稀であった。そして河内介は、兎も角も牡鹿城内に於いては此の会合に出る資格のある、少数の一人だったのである。蓋し、世に伝わる武州公の和歌と云うものを見るのに、武人の作としては略体を備えていて、相当の素養があったことを示しているけれども、それは恐らく此の歌の会などに刺戟されて歌道の忽がせにすべからざることを悟り、後年努めて修練を積んだ結果なので、此の話の頃は二十歳の若年であったから、格別歌が上手と云う程ではなかったであろう。