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ぶしゅうこうひわ
武州公秘話
谷崎 潤一郎
線上閱讀谷崎 潤一郎《武州公秘話(ぶしゅうこうひわ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 107,572 字 · 209 頁
九月ももう半ばごろのことで、寒い晩だった。老女は白い小袖の上に、何かごわ/\した裲襠めいた物を纏って、猫背の肩をかゞめて、引きずった裾が寝ている人に触らぬように、そして、衣ずれの音を少しでも殺すように、両手で褄を取っていた。雪洞は持っていないけれども、廊下へ出ると、庭のところ/″\に篝り火が燃えているので、それが何処からか板敷に反射するばかりでなく、とき/″\振り返っては法師丸に眼で合図をする老女の半顔を赤々と照らした。彼女が小声で何か云うたびに、息が白く凍るのが分った。少年は、いつも晝間見る時の老女とは、まるきり違った感じがした。品のよい、暖かみのある、乳母か伯母さんのような老婦人であるのが、今はそんな風に見えない。悪い人間と云うのでもないが、肉の落ち凹んだ顔の方々に深い影が出来て、般若の面のようである。そのせいかどうか、晝間よりは一層歳を取った、うすぎたない老婆に見える。白髪が生えていることも前から気が付かないではなかったが、それが特に小鬢に多く、かゞり火の餘焔が遠くでめら/\と燃え上るのを逆光線に浴びて、針鉄のように光っている。と、法師丸は、身分のある者は決して知らない人に誘われてウカウカ外へ出るものではない、出る時は必ず私に断って出るようにとかね/″\青木主膳から云われていた言葉を思い出した。