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ぶしゅうこうひわ

武州公秘話

谷崎 潤一郎

線上閱讀谷崎 潤一郎《武州公秘話(ぶしゅうこうひわ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 107,572 字 · 209 頁

青空文庫

法師丸は、女が城を落ちて来たように思わせるために、被衣を頭へかざしていたが、そのうすものゝ影が真っ白な地上に海月の如くふわ/\するのを視つめながら歩いた。

敵の陣屋と云うのは、二た月に亙る城攻めのことでもあり、二萬騎にあまる大軍が屯していた場所であるから、それ相当の設備がしてあったに違いない。牡鹿山の城は、うしろに重畳たる山岳地帯を控え、城のある部分だけが平原に向って半島の如く突出していたので、敵はその半島の裾をU字型に包囲して、蜿蜒たる陣形を作っていた。そして陣屋の一番外側には篠垣を繞らし、五間十間ぐらいの距離に本篝りを焚き、その垣の内側に、望楼、見せ櫓等をところ/″\に設け、板囲いの仮小屋、―――今で云えば急造のバラックのような営舎を幾棟も建てゝ、そこに大将以下の士卒が寝泊りをしていた。法師丸は間道を通ってU字型の上部の切れ目から一旦包囲の外へ逃れ、敵の陣営の裏側を迂廻して、恰もU字の最下部のところ、城の大手と向い合った本陣のうしろへ出たのであったが、やがて篠垣の一部を破って構えの内へ忍び込むことに成功した。もちろん普通の場合ならばそう易々と潜入出来る筈はないが、彼が豫想した如く、寄せ手の大半は城の三の丸や二の丸の内部へ詰め切っていて、陣屋の方は人数も手薄に、見張りの兵なぞも警備を弛めていたのである。