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ぶそうせるしがい
武装せる市街
黒島 伝治
線上閱讀黒島 伝治《武装せる市街(ぶそうせるしがい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 115,959 字 · 234 頁
にもかゝわらず、実際は、滑稽な、おかしい、快活な微笑の持主であることは、以前と変らなかった。これは、すゞにとって、奇怪で、同時に快よかった。しかし、中津は、やって来ると、玄関に這入った瞬間から、帰えりに、観音開きの門を出て、なお、も一度、あとを振りかえるその時間まで、十二時間でも、十五時間でも、その間、一分間も、彼女の、顔や、頸や手から、微笑を含んだ、怖げな眼を離さなかった。それが、すゞには、窮屈で、息苦るしかった。
その執拗な視線は、彼女が、用事をして、こちらからは、彼を見ていない時にも、やはり注がれていた。そのことを、彼女は感じた。
ときどき、彼女は、どうかすると、中津の濃い毛だらけの頑丈な二本の腕が、うしろから無遠慮に自分を抱きしめて、首筋のあたりを、熊のようになめやしないかと気にかかった。ぞッとした。
兄がいないと、なお、この恐怖は強かった。母もいなくなると、恐怖と危険は、もっと、もっと身に迫るような気がした。
すゞは、妹と、歩きかねる甥とを頼りにするような心持になった。小鳥のように、隅の方にうずくまっていた。
幹太郎は、この一家を襲っている二つの恐怖を感じた。