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しんだちどり

死んだ千鳥

吉川 英治

線上閱讀吉川 英治《死んだ千鳥(しんだちどり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 15,539 字 · 32 頁

青空文庫

その癖、去年の年暮の払いも、まだ滞っている程だったが。

墨江は、そういう世間が世間だと思っていた。そのうちには良人が仕官する。支度金が下がる。――だから例え質屋の門を潜っても、元の品位と権式だけは捨ててはならない。そう信じていた。

それにつけても今度の機会は惜しい。

良人の平田賛五郎は、元々、弓仕の家筋の人なのである。賛五郎の実兄の平田文吾は、現在でも熊本の国許で細川家の弓道師範をしており、禄高四百石、日置流の弓では九州でも並ぶ者のない人だが、賛五郎はその兄をも凌ぐ上手だといわれていた程だった。

(口惜しい。――何としても)

彼女は、良人贔屓な気持ばかりでなく、そういう良人を持ちながら、今度の三十三間堂の通し矢に出せないかと思うと、自分のせいのように、瞼が熱いものに霞んでくる。

国表の実兄や親戚へ云ってやれば――とも考えるが、日数の程が間にあうまいし、又、日数があっても、金子の頼みなど、受け付けてくれる身寄はないかも知れぬ。

(不義者の果てが、よい態な!)

(御勘気の者に、一切関うな。関うては、藩の御法を犯すことになろうぞ)

遠い国許にいる知辺の顔が、みな嘲笑の歯を向けているように僻まれる。