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かごつるべ

江戸情話集

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《江戸情話集(かごつるべ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 203,779 字 · 407 頁

青空文庫

しそうになって逃げて帰って来たことがあった。十吉が吉原の明るい灯を近く見たのは、あとにもさきにもその一度で、仲の町の桜も、玉菊の燈籠も、まったく別の世界のうわさのように聞き流していた。

「あたし、まだ一度も吉原の初午へ行ったことがないから、ことしは見に行こうか知ら。え、十さん、一緒に行かないか」

顔を覗いて少し甘えるように誘いかけられても、十吉はなんだか気の乗らないような返事をしているので、お米もしまいには面白くないような顔をして、子供らしくすねて見せた。

「お前、あたしと一緒に行くのはいやなの」

「いやじゃないけれども詰まらない。初午ならば向島へ行って、三囲りさまへでも一緒にお詣りをした方がいいよ」

「でも、吉原の方が賑やかだというじゃあないか」と、お米はまだ吉原の方に未練があった。

「賑やかでもあんなところはいやだ、詰まらない」

十吉は頻りに詰まらないと言った。二人は来月の初午について今から他愛なく争っていたが、結局らちが明かなかった。

「十さん、吉原は嫌いだね」

「むむ」

二人はまた黙って空を仰ぐと、消え残った雲のような白い雪が藁屋根の上に高くふわりと浮かんでいた。