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かごつるべ
江戸情話集
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《江戸情話集(かごつるべ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 203,779 字 · 407 頁
白い踵にからむ部屋着の裾にも雪の日の寒さは沁みて、去年の暮れに入れ替えたばかりの新しい畳は、馴れた素足にも冷たかった。
雪は綿と灰とをまぜたように、大きく細かく入りみだれて横に縦に飛んでいた。田町から馬道につづいた家も土蔵ももう一面の白い刷毛をなすられて、待乳の森はいつもよりもひときわ浮きあがって白かった。傘のかげは一つも見えない浅草田圃の果てに、千束の大池ばかりが薄墨色にどんよりとよどんで、まわりの竹藪は白い重荷の下にたわみかかっているらしかった。朝夕に見る五重の塔は薄い雲に隔てられたように、高い甍が吹雪の白いかげに見えつ隠れつしていた。
こんなに美しく降り積もっていても、あしたは果敢なく消えてしまうのかと思うと、春の雪のあわれさが今更のように綾衣の心をいたましめた。ことし初めて降る雪ではない。そうとは知っていながらも、物に感じ易くなった此の頃の彼女の眼には、きょうの雪が如何にも美しく、果敢なく悲しく映った。
彼女はいつまでも櫺子にすがって、眼の痛むほどに白い雪を眺めていた。
四
雪はその日の夕にやんだが、外記は来なかった。その明くる夜も畳算のしるしがなかった。