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かごつるべ
江戸情話集
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《江戸情話集(かごつるべ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 203,779 字 · 407 頁
綾衣には外記という男がある。それが普通一遍の客でないことは、大菱屋の二階はいうまでもなく廓じゅうにももう拡まっている。それがために綾衣の客は次第に薄くなってゆく。それだけでも亭主としては忌な顔をせずにはいられなかった。外記の小普請入りも亭主はもう知っていた。その矢先きへ、綾衣のひたいに剣難の極印が打たれたと聞いては、彼がおびえたのも無理はなかった。
こうした場合の予防手段は、その客を「堰く」よりほかはなかった。しかし外記はかつて茶屋の支払いをとどこおらせたこともなかった。綾衣が身揚りするという様子も見えなかった。大菱屋ではいかに未来の危険を恐れていても、差し当っては外記をことわる口実を見いだすのに苦しんで、単に注意人物として遠巻きに警戒しているに過ぎなかった。
その注意人物は病気で十日ほども遠退いたが、その後は相変らず足近くかよいつめて、亭主のひたいにいよいよ深い皺を織り込ませた。二月の初午は雨にさびれて、廓の梅も雪の消えるように散ったかと思う間に、見返り柳はいつかやわらかい芽を吹いて、春のうららかな影はたわわになびく枝から枝に動いた。
雛の節句の前夜に外記は来た。