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かごつるべ

江戸情話集

岡本 綺堂

線上閱讀岡本 綺堂《江戸情話集(かごつるべ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 203,779 字 · 407 頁

青空文庫

治六や佐野屋の亭主は、金のあるうちにどうにかしろと言うけれども、次郎左衛門はそれと反対に、金のあるうちはどうすることも出来ないと思っていた。彼は同時に二つの仕事を抱えるほどの余裕をもたなかった。金のあるあいだは八橋に逢うのが唯一の仕事で、とてもほかの仕事に取りかかれそうもなかった。金のあるあいだは何を考えても無駄なことだと、彼は自分で見切りを付けていた。

その金がいよいよなくなったらどうする――その時になったら初めてなんとか考えよう、又なんとかいい考えも出るだろうと、彼は努めてなんにも考えないようにしていた。

「治六の馬鹿野郎」

それにつけても腹立たしいのはゆうべの治六であった。八橋を身請けするほどならば、あいつらの知恵を借りるまでもなく、おれが自分から進んで立派に身請けをする。それがもう出来ないのを知っているから、今もこうして通いつづけている。その入り訳はきのうも宿で言い聞かせてあるのに、うっかりと詰まらないことを浮橋に言い出して、それが八橋の耳へもはいって、おれはいい恥を掻かなければならない事になった。佐野の大尽ともあるべき者が、多寡が四百両や五百両で大兵庫屋の花魁を請け出そうとした――そんなことが世間へきこえたら廓じゅうの笑い草になる。