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かごつるべ
江戸情話集
岡本 綺堂
線上閱讀岡本 綺堂《江戸情話集(かごつるべ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 203,779 字 · 407 頁
三月ももう末で、仲の町の散る花は女の駒下駄の下に雪を敷いていた。次郎左衛門もその雪を踏んで、一緒に歩いた。
彼はほかの子分どもをひとまず国へ帰してしまった。治六だけを宿に残して、それからほとんど一夜も欠かさずに廓へかよった。彼は見返り柳の雨にほととぎすを聞いたこともあった。待合いの辻の宵にほたるを買ったこともあった。彼は三月の末から七月の初めへかけて百日ほども八橋に逢い通した。金がつづかないので、国から幾度も取り寄せた。
「旦那さま、盆がまいりますぞ。いい加減に戻らっしゃい」と、治六も呆れてたびたび催促したので、次郎左衛門もさすがに気が付いたらしく、盂蘭盆まえに一旦帰ることになった。
帰って見ると、百日あまりの留守の間に子分どもの多くは散ってしまった。自分の縄張り内は大抵他人に踏み荒らされていた。いつもの次郎左衛門ならばとても堪忍する筈はなかった。彼は虎のように哮って、自分の縄張りを荒らした相手に食ってかかるに相違なかった。彼は得意の剣術を役に立てて、相手と命の遣り取りをしたかも知れなかった。しかし彼の性質はこの春以来まったく変っていた。
彼が性格のいちじるしく変化したことは、佐野屋で一緒に起き臥ししていた治六にもよく判っていた。