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ちんもくのとう

沈黙の塔

森 鴎外

線上閱讀森 鴎外《沈黙の塔(ちんもくのとう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 6,131 字 · 12 頁

青空文庫

文芸の世界は疑懼の世界となった。

この時パアシイ族のあるものが「危険なる洋書」という語を発明した。

危険なる洋書が自然主義を媒介した。危険なる洋書が社会主義を媒介した。翻訳をするものは、そのまま危険物の受売をするのである。創作をするものは、西洋人の真似をして、舶来品まがいの危険物を製造するのである。

安寧秩序を紊る思想は、危険なる洋書の伝えた思想である。風俗を壊乱する思想も、危険なる洋書の伝えた思想である。

危険なる洋書が海を渡って来たのは Angra Mainyu の神の為業である。

危険なる洋書を読むものを殺せ。

こういう趣意で、パアシイ族の間で、Pogrom の二の舞が演ぜられた。そして沈黙の塔の上で、鴉が宴会をしているのである。

*          *          *

新聞に殺された人達の略伝が出ていて、誰は何を読んだ、誰は何を翻訳したと、一々「危険なる洋書」の名を挙げてある。

己はそれを読んで見て驚いた。

Saint-Simon のような人の書いた物を耽読しているとか、Marx の資本論を訳したとかいうので社会主義者にせられたり、Bakunin, Kropotkin を紹介したというので、無政府主義者にせられたとしても、読むもの訳するものが、必ずしもその主義を遵奉するわけ