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くつかけより
沓掛より
寺田 寅彦
線上閱讀寺田 寅彦《沓掛より(くつかけより)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 8,751 字 · 18 頁
蓄音器の代わりに宿の女中の一人が歌っているということであった。人間のほうが器械の声よりもどんなに美しいか到底比較にならないのであるが、しかしいわゆる現代人にはこの雑音だらけの拡声器の音でないと現代の気分が出ないというのであろう。夜のふけるに従って歌の表情が次第に生き生きした色彩を帯びて来た。手拍子の音が気持ちよくそろって来るのは妙なものである。
十七日は最終の晩だというので、宵のうちは宿の池のほとりで仕掛け花火があったりした。別荘の令嬢たちも踊り出て中には振袖姿の雛様のようなのもあった。見物人もおおぜい集まって来た。中には遠くから自動車で見に来る人もあるらしかった。
年の行かない令嬢が振袖に織物の帯を胸高にしめて踊るのがなんと言ってもこういう民族的の踊りにはふさわしく美しく見えたが、洋装のお嬢さんたちのはどうも表情体操でも見るようで、おかしくはないが全くなんの情味もないものに思われた。それからまた、浴衣に頬かぶりの男はいいが、その頬かぶりの中からロイドめがねの光っているのも不思議な見ものである。いちばん板について見えるのはやはりふだん着のままで踊る宿の女中や村嬢たちの姿であろう。