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うみのほとり

海のほとり

芥川 竜之介

線上閱讀芥川 竜之介《海のほとり(うみのほとり)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 6,015 字 · 13 頁

青空文庫

それでも一時は火が燃えるの人を呼ぶ声が聞えるのって、ずいぶん大騒ぎをしたもんですよ。」

「じゃ別段その女は人を嚇かす気で来ていたんじゃないの?」

「ええ、ただ毎晩十二時前後にながらみ取りの墓の前へ来ちゃ、ぼんやり立っていただけなんです。」

Nさんの話はこう言う海辺にいかにもふさわしい喜劇だった。が、誰も笑うものはなかった。のみならず皆なぜともなしに黙って足ばかり運んでいた。

「さあこの辺から引っ返すかな。」

僕等はMのこう言った時、いつのまにかもう風の落ちた、人気のない渚を歩いていた。あたりは広い砂の上にまだ千鳥の足跡さえかすかに見えるほど明るかった。しかし海だけは見渡す限り、はるかに弧を描いた浪打ち際に一すじの水沫を残したまま、一面に黒ぐろと暮れかかっていた。

「じゃ失敬。」

「さようなら。」

HやNさんに別れた後、僕等は格別急ぎもせず、冷びえした渚を引き返した。渚には打ち寄せる浪の音のほかに時々澄み渡った蜩の声も僕等の耳へ伝わって来た。それは少くとも三町は離れた松林に鳴いている蜩だった。

「おい、M!」

僕はいつかMより五六歩あとに歩いていた。

「何だ?」