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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

線上閱讀海野 十三《深夜の市長(しんやのしちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 頁

青空文庫

中へ入ってみると、深刻さは更に喧噪さと合体して、まるで火事場のような騒ぎだった。僕はすっかり毒気に当てられた形で、早くその窒息するような雰囲気から脱れたいとそればかりを思った。それで幸い一つの階段を見出すと、それに足を掛け、トコトコと二階へ上っていった。

二階へ来てみると、これはまた世界が違ったように物静かだった。廊下には赤と黒との模様のある絨毯がズッと敷きつめてあった。その上を静かに歩いてゆきながら、傍の扉の上に懸っている黒い漆塗りの名札を読むと「市長室」などと、厳しい達者な白い文字で記してあった。

――はッはッ、これが本物のT市長さんの居るところか。と、僕は「深夜の市長」のことを思い出して、急に嬉しくなった。T市長というと、今は男爵高屋清人氏だった。扉をノックして高屋市長の顔をちょっと見てくるのも悪くないなアと考えたが、どうやら気が変だと間違えられそうな虞れがあるのでまあ思い停った。

その代り、隣りにある第一応接室の扉をグッと明けてみた。そこには目も眩む金色燦然たる大額が、壁間にズラリと並んでいた。それは歴代の市長の肖像らしかった。誰も彼も市会に苛め抜かれて罷めたような顔はしていなかった。