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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

線上閱讀海野 十三《深夜の市長(しんやのしちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 頁

青空文庫

イヤ全く、このたびのように事件がなくとも、僕みたいな性格の男は、もともと司法官などが勤るような高等な人間ではないのである。それをすこしよく云えば、僕は司法官になるにはあまりに人間臭が強かったのであった。

ようやく雁金検事の聴許を得て、僕はホッとした気持で外に出た。春の夜とはいえ、今夜も前日に続いて、また雪でも降りかかりそうな寒さだった。

「とうとう、役人生活を棒にふったぞ!」

僕は独り言をいって、自分に云い聞かせた。そうだ、もう僕は司法官でも役人でもないのだ。天下のルンペン浅間新十郎なのだ。これからどうして世渡りをしてゆこうか。

僕の足は、いつとはなしに、大河の鉄橋の上を渡って、河の向うの「深夜の市長」の棲む洞窟の方に近づいていった。馴染み深い深夜の街は、まるで僕の故郷のように感じられた。業平橋を越え、右に広い道を折れ、それから狭い横丁に入りこんでいった。目印の炭屋の角を曲れば、そこの突き当たりが「深夜の市長」の洞窟だった。――行きついた洞窟はなんとなく様子が違っていて、入口に堆高く空き函が積みあげてあった。

「モシ、『深夜の市長』さん。――」

僕は内へ向って、忍びやかに声をかけた。