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しんやのしちょう

深夜の市長

海野 十三

線上閱讀海野 十三《深夜の市長(しんやのしちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 頁

青空文庫

丸ビルの前で車を棄てた僕は、暫くは冷えきった建物の蔭に身をひそめていた。円タクはそこに下した僕を別段怪しむ様子もなく、スピードをあげて有楽町の方へ走り去った。目をあげて向うを見ると、月も星もない曇り空に、尾根のような駅の屋根が、高く黒々と浮きだしていた。遉に列車も発着を停止したらしく、いつもは眩しいばかりに照りつけている反射灯の光も消えて、塔上の丸い時計の文字盤だけが、ボンヤリと見えていた。指針は正に、午前二時を指していた。

僕はオーヴァの襟を立てると、丸ビルの蔭から離れて、なるべく跫音のしないように、郵船ビルの方へ歩きだした。どちらを見ても、まったく人影が見えなかった。ただときどき向うに見えるお濠ばたを、ツツーッと自動車のヘッド・ライトが夢のように流れてゆく。

丸ビルの裏角まで来ると、そこを左にとって折れた。そこには、ずっと狭い横丁が真直に通じていた。舗道もかなり冷えているらしく、立てまいとする跫音が、コツコツと高く、あたりのビルディングに反響した。深夜の散歩者は、いよいよ萎縮しきって、不安な歩行をつづけた。十字路へ出ようという途端に、突然カラカラという音がして、なにかフワフワした白いものが転がって来た。