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しんやのしちょう
深夜の市長
海野 十三
線上閱讀海野 十三《深夜の市長(しんやのしちょう)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 109,982 字 · 220 頁
いつもそっぽを向いて話しかけたり、感心したりするのだった。それはこの偏執な科学者の癖として仕方がないと我慢ができるが、さっきからだんだんと我慢のなりかねるのは、僕がこの速水輪太郎を訪問したその真の目的だった。それは昨夜、事件の現場で拾った懐中時計と三枚の十銭ニッケル貨幣とを返却して貰うことだった。このような調子だとすると、恐らくこの科学者は、例の虎御前が届けたであろうところのその物件について、手にふれるどころか考えようとさえしたことがないに違いない。
「もし、速水輪太郎さん。――」
と、ゴソゴソ狭い部屋の中を動物園の狼のように歩き廻る怪塔の主に呼びかけた。
「実は、あの――何というか『ブレーキ』に入り浸って酒びたりになっている女のひと……」
「ああ、それは丘田お照のことだ」と速水は早口にいった。
「丘田お照さんというのですか。……そのお照さんが、貴下にお届けした筈の懐中時計と十銭玉とを返して頂きに参ったのですが……」
「ああ、あれ? あれなら、もう用は済んだ。そこの机の上に載っているから持ってゆきたまえ」
と、速水氏はくびれたような長い頤の先で、書物の堆高く積まれた片隅にある机の方を差した。