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せいぞうとぬま

清造と沼

宮島 資夫

線上閱讀宮島 資夫《清造と沼(せいぞうとぬま)》,假名注音日語閱讀。JLPT N3,點詞查義。

N3 · 進階 · 新字新假名 · 5,864 字 · 12 頁

青空文庫

それを聞くと清造は、いつも悲しくなりました。東京の市中へ使いにいって、あのものすごい雑沓に出あうと、かれは自分をどうしていいかわからないのに、この親切なおやじさんと別れるようになるのがいやだったのです。おかみさんもいい人でした。しかし、貧しい暮しをしている人は、時々自分でも思いがけないように腹をたてるものです。おかみさんにもそんなくせがありました。清造はかんではき出すような小言をいわれると、店の隅で泣いていました。そういうとき、だまってじっと目をつぶると、いつもあの沼と、沼に浮かぶあわがかならず目に浮かんできました。

お正月がすぎると、凧屋では五月ののぼりの鯉やなにかをつくりはじめました。そうして五月もすむと、今度はうちわやせんすをつくりはじめたのです。その時分、うちわの絵には、庭の池に築山があったり、ほたるが飛んでいたりするのがたくさんありました。清造はそういう絵を張っていると、いつでもあの沼のことを思い出しました。そこでかれはじっと目をつぶると、沼にはあわが浮かんで来ます。あしの葉の枯れている時もありました。はすの花の咲いているときもあるし、ほたるの飛んだ晩もあったし、氷の上に雪のつもっているときもありました。