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しぶえちゅうさい
渋江抽斎
線上閱讀森 鴎外《渋江抽斎(しぶえちゅうさい)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 166,525 字 · 334 頁
抽斎は早く帰って、晩酌をして寝た。地震は亥の刻に起った。今の午後十時である。二つの強い衝突を以て始まって、震動が漸く勢を増した。寝間にどてらを著て臥していた抽斎は、撥ね起きて枕元の両刀を把った。そして表座敷へ出ようとした。
寝間と表座敷との途中に講義室があって、壁に沿うて本箱が堆く積み上げてあった。抽斎がそこへ来掛かると、本箱が崩れ墜ちた。抽斎はその間に介まって動くことが出来なくなった。
五百は起きて夫の後に続こうとしたが、これはまだ講義室に足を投ぜぬうちに倒れた。
暫くして若党仲間が来て、夫妻を扶け出した。抽斎は衣服の腰から下が裂け破れたが、手は両刀を放たなかった。
抽斎は衣服を取り繕う暇もなく、馳せて隠居信順を柳島の下屋敷に慰問し、次いで本所二つ目の上屋敷に往った。信順は柳島の第宅が破損したので、後に浜町の中屋敷に移った。当主順承は弘前にいて、上屋敷には家族のみが残っていたのである。
抽斎は留守居比良野貞固に会って、救恤の事を議した。貞固は君侯在国の故を以て、旨を承くるに遑あらず、直ちに廩米二万五千俵を発して、本所の窮民を賑すことを令した。勘定奉行平川半治はこの議に与らなかった。