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しぶやけのしそ
渋谷家の始祖
宮本 百合子
線上閱讀宮本 百合子《渋谷家の始祖(しぶやけのしそ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 68,023 字 · 133 頁
の種類を決定するものなのではないだろうか。
この場合では、正隆に対する徳義上の疑問が、落付きを与える一つの重しとなったのである。即ち、外国語には通じている正隆が、不完全な日本文の弱点を補うために、彼の長兄である正則の助力を仰いで置きながら、それをそのまま知らん顔で提出したのではあるまいか、というのである。
勿論、それはありそうなことで、ないとはいえなかった。正則は、素人でこそあれ、漢詩をよく作ることで、一部には著名であった。その兄を持つ正隆が、若し彼を強請(せび)って書かせたとすれば、この位の文章位、何の苦もなく出来(でか)されてしまう筈なのである。
従って、ありそうなこととして、この疑問が、皆の胸に湧いたことは、理由のないことではなかっただろう、然し、漠然としているにも拘らず、人間の心に不思議な昏迷を与えるこの感じは、危険なものである。人は、なかなかその妙な暗示から解放されることが出来ない。正隆が、二人掛りで遣って置いて、そっと口を拭っているのではあるまいかという、最初は極く淡い、互に云うのさえ憚られるようなものであった一種のアンティシペーションは、討議、評議と時を経て行くうちに、何時ともなく皆の心の中で、濃度を増して、終には動かすべからざる疑問となってしまったのである。