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こんとんみぶん
渾沌未分
岡本 かの子
線上閱讀岡本 かの子《渾沌未分(こんとんみぶん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 16,232 字 · 33 頁
自分の肉体のたった一つの謬着物をもぎ取られて、永遠に帰らぬ世界へ持ち去られるような気持ちに、小初は襲われた。
小初もあわてて立ち上った。小初は薫の後を追って薫の腕へぎりぎりと自分の腕を捲きつけた。
「薫さん、だけど薫さん、遠泳会にはきっと来てね。精いっぱい泳ぎっこね。それでお訣れならお訣れとしようよ」
「うん」
「きっとよ、ね、きっと」
「うん、うん」
そして、薫が萎れてのろのろと遠ざかって行くのが今さら身も世もなく、小初には悲しくなった。
小初は元の砂地に坐って薫の後姿を見送った。風のないしんとした蘆洲のなかへ薫の姿は見えなくなって行った。
小初は眠れなかった。急に重くなって来た気圧で、息苦しく、むし暑く、寝返りばかりうっていたせいでもあるが、とてもじっとしていられない悲しい精力が眠気を内部からしきりに小突き覚ました。傍で寝ている酒気を帯びた父の鼾が喉にからまって苦しそうだ。父は中年で一たん治まった喘息が、またこの頃きざして来た。昨今の気候の変調が今夜は特別苦しそうだ。明日の遠泳会にも出られそうでない……。だが小初にはそんなことはどうでも、遠泳会の後に控えている貝原との問題を、どう父に打ち明けたものかしらと気づかわれる。