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こんとんみぶん
渾沌未分
岡本 かの子
線上閱讀岡本 かの子《渾沌未分(こんとんみぶん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 16,232 字 · 33 頁
両手を後へ引いて飛込みの姿勢になるときが二で、跳ね出す刹那が三の、すべてで三挙動である。いま小初は黙って「一」の動作を初めたが、すぐ思い返して途中からの「二」と号令をかけ跳び込みの姿勢を取った。
それは、まったく翡翠が杭の上から魚影を覗う敏捷でしかも瀟洒な姿態である。そして、このとき今まで彫刻的に見えた小初の肉体から妖艶な雰囲気が月暈のようにほのめき出て、四囲の自然の風端の中に一箇不自然な人工的の生々しい魅惑を掻き開かせた。と見る間に「三!」と叫んで小初は肉体を軽く浮び上らせ不思議な支えの力で空中の一箇所でたゆたい、そこで、見る見る姿勢を逆に落しつつ両脚を梶のように後へ折り曲げ両手を突き出して、胴はあくまでしなやかに反らせ、ほとんど音もなく水に体を鋤き入れた。
目を眩しそうにぱちつかせて、女教師の動作の全部を見届けた貝原は
「型が綺麗だなあ」
と思わず嘆声を挙げてやや晦冥になりかけて来た水上三尺の辺を喰い付きそうな表情で見つめた。
都会の中央へ戻りたい一心から夢のような薫少年との初恋を軽蔑し、五十男の世才力量に望をかけて来た転機の小初は、翡翠型の飛込みの模範を示す無意識の中にも、貝原に対して異性の罠を仕込んでいた。