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ゆもとのあき
湯元の秋
豊島 与志雄
線上閱讀豊島 与志雄《湯元の秋(ゆもとのあき)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。
N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 2,549 字 · 6 頁
そして禿岩の上に霜を置き、草葉の末に露を置くであろう。遠くその高原をかこむ山の頂を越えては、平地の上に夜の雲を被せるであろう。
私は逐わるるようにして自分の巣の方へ帰って行った。そうだ、巣というより外に、自分の宿を指して名づくる言葉をその時私は知らなかったのである。
静かな湖水の縁に沿って、白樺や※(「木+解」、第3水準1-86-22)や落葉松の立ち並んだ間を分けて、曲りくねった一筋の道を辿ると、枯枝の束を背負った女に私は幾度か出逢った。そして道の傍で、風に倒れた大木の幹を切っている男を見た。雪が来ない前に彼等は、それらの薪を自分の小屋に運ばねばならないのである。彼等の節くれ立った頑丈な指先を見て、私は何かに感謝したくなった。何故か? 私はそれを知らない。彼等は私と何の交渉もないのだ。それでも私は涙ぐんだ心地で彼等を見なければならなかったのである。
何か大いなるものの意志が、力が、凡ての上に働いて居たのである。無慈悲でそして涙ぐまるるようなものの力が。私は自分の巣に帰るのを止めて、町の裏に在る湯の湧き出る沼の方へ歩いて行った。山腹からつき出た大きな岩石の上に立つと、すぐ足下に小さな沼があって、その灰色の流砂の底から、むくむくと熱い湯が湧き出ていた。