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まんかんところどころ

満韓ところどころ

夏目 漱石

線上閱讀夏目 漱石《満韓ところどころ(まんかんところどころ)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 74,601 字 · 148 頁

青空文庫

盲目は彼の眼の暗いごとく、暗い顔をして、悲しい陰気な、しかも高い調子の胡弓を擦り続けに擦っている。左の方に立っている女の一人が余を見た。それが忌むべき藪睨であった。日の目の乏しくって暮やすい室のうちで、この怪しい団体はこの怪しい音楽を奏して夢中である。余は案内の袖を引いてすぐ外へ出た。

四十

橋本は遠い所へ豚を見に行った。何でも市街から一里余もあるとか云う話である。こんな痛い腹を抱えて今更豚でもあるまいと思って止めた。その代りにそこいらをぶらつくべく主人といっしょに馬車で出た。主人がまあ遼河を御覧なさいと云う。馬車を乗り棄てて河岸へ出ると眼いっぱいに見えた。色は出水の後の大川に似ている。灰のように動くものが、空を呑む勢で遠くから流れて来る。哈爾賓に行く途中で、木戸さんに聞いた話だが、満洲の黄土はその昔中央亜細亜の方から風の力で吹き寄せたもので、それを年々河の流れが御叮嚀に海へ押出しているのだそうである。地質学者の計算によると、五万年の後には今の渤海湾が全く埋ってしまう都合になっていますと木戸君が語られた。河辺に立って岸と岸との間を眺めていると、水の量が泥の量より少いくらい濁ったものが際限なく押し寄せて来る。