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しょうねん

潤一郎ラビリンスI――初期短編集

谷崎 潤一郎

線上閱讀谷崎 潤一郎《潤一郎ラビリンスI――初期短編集(しょうねん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 41,319 字 · 84 頁

青空文庫

「ほら、此処に居てよ。」

と、急に耳元でなまめかしい声を立て、背中をぽんと打って逃げ出します。

「そら、どうだ/\。」

と、旦那が耳朶を引っ張って、こづき廻すと、

「あいた、あいた。」

と、悲鳴を挙げながら、眉を顰め、わざと仰山な哀れっぽい表情をして、身を悶えます。其の顔つきがまた何とも云えぬ可愛気があって、誰でも其の男の頭を撲つとか、鼻の頭をつまむとか、一寸からかって見たい気にならない者はありません。

今度は十五六のお転婆な雛妓が、後へ廻って両手で足を掬い上げたので、見事ころ/\と芝生の上を転がりましたが、どッと云う笑い声のうちに、再びのッそり起き上り、

「誰だい、此の年寄をいじめるのは。」

と、眼を塞がれた儘大口を開いて怒鳴り立て、「由良さん」のように両手を擴げて歩み出します。

此の男は幇間の三平と云って、もとは兜町の相場師ですが、其の時分から今の商売がやって見たくて耐らず、とう/\四五年前に柳橋の太鼓持ちの弟子入りをして、一と風変ったコツのある気象から、めき/\贔屓を拵え、今では仲間のうちでも相応な好い株になって居ます。

「桜井(と云うのは此の男の姓です。)の奴も呑気な者だ。